ジャズ来るべきもの/オーネット・コールマン
音色そのもので訴えかけてくる
言葉が通じなくとも、気持ちや思いは相手に伝えることが出来る。
人間の脳は、意味を意味として理解するだけではなく、雰囲気や快・不快といった漠然としたニュアンスも処理できる能力を持っているからだ。
赤ちゃんの泣き声で、オムツなのか、ミルクなのかを判別できる母親(父親)が良い例だ。
少しだけ相手に踏み寄ってあげれば、少しだけ相手の心の扉を開くだけで、意味を超えて、もっとダイレクトに感情を受け止められるはずなんだ。
オーネットの音楽もそうだよね。
ま、彼は作曲家志望だったからメロディにも色々なニュアンスを込めているんだろうけれども、もっとダイレクトに音色そのもので訴えかけてくる。
音色とリズム
さらに、ピッタリと寄り添う彼の相棒、ドン・チェリーのラッパとの音。
この二者の発する音が、独特な空気を形作る。
この2つの音色がブレンドされた様々な表情の音を浴びるだけで、理解ではなくて、身体全体がサウンド受け止める作業に入る。
まったりとした感じ、ゆったりとした感じ、突き刺すような感じ、発狂しつつもハッピーな感じ。
……その他色々なニュアンス。
おそらく、メロディと、コードの響きという味付けによって、我々は音楽を捉える習慣が身についているんだろうけれども(あ、あとは歌詞もね)、でも、そんな高度な脳の処理に後押しされなくても、もっと原始的な単純な音色というダイレクトに聴覚に訴えかける運動を受け止めるだけでも、充分に音楽を楽しむことが出来るのだ。
リズムが大事。
音色が大事。
リズムはノリだったり、間だったり、タメだったり、スピード感だったり、グルーヴだったりも含むが、いずれにしても、全部大事。
音色は音のインパクトや音圧、音量、空気感、音の通りなどで、それら全部が大事。
この2つの要素はとても大事。
3、4が無くて、5番目か6番目に大事なのが、メロディだったりハーモニーだったりする。
あくまで私的な基準によれば、だが。
だから、オーネットの音楽を私が好きな理由は、一番大事な2つの要素を、なにはともあれ最優先で表現し、実際、こちらに訴えかけてくるから。
それは、4ビートのリズムでも、オーケストラ作品でも、奇妙だが心地よいファンク路線のプレイにおいても、全部同じ。
一貫して音色とリズムの2つの要素を大事にしている。
余裕があれば、さらに空気の振動や、時間の揺れのみならず、様々な想像力を廻らせてみよう。もっと楽しめるから。
難解に語ろうとすれば、いくらでも難解に出来るのがこのアルバムの厄介なところだが、実際は、難解に理解しようとすればするほど、音が遠ざかってゆくんじゃないかな。
意味や疑問符を捨て、なにはさておき単純に受け止めようとすると、今度は音が勝手にこちらの耳の穴にスルリと入ってきてくれる。
発表当時は問題作だったらしい。
では、今のあなたにとっては問題作……ですか?
ちなみに、私は、《ピース》と《コンジーニアリティ》が大好き。
とってもメロディアスではないですか。
どこがどう良いのか、なかなかうまく他者に共感していただく言葉や喩えが見つからない。そういった意味では、問題作かもしれませんね。
記:2005/05/31
album data
THE SHAPE OF JAZZ TO COME (Atlantic)
– Ornette Coleman
1.Lonely Woman
2.Eventually
3.Peace
4.Focus On Sanity
5.Congeniality
6.Chronology
Ornette Coleman (as)
Don Cherry (cor)
Charlie Haden (b)
Billy Higgins (ds)
1959/05/22