チックがアコースティックピアノを弾くエレキ・マイルス/スウェディッシュ・デヴィル
マイルス・デイヴィスの長いキャリア、様々なバンド形態の中でも、私は、「ロスト・クインテット」の布陣が好きだ。
ジャック・ディジョネット(ds)、
デイヴ・ホランド(b)、
チック・コリア(el-p)、
ウェイン・ショーター(ss,ts)
という、豪華な面々。
これにマイルス・デイヴィスが加わった5人で繰り広げられる圧倒的サウンドは、知性とパワーが鬩ぎあい、聴いていると常にムズムズとした快感が押し寄せてくる。
チックが弾くエレピの影響と、さらに、場合によってはビートをキープするというよりは、ほとんどドラムソロのようなドラミングをほどこすディジョネットの影響もあり、ときにフリージャズがかった局面も出てくるが、私、フリージャズも結構好きなんで、ま~ったく大丈夫。
むしろ、この知性的な荒々しさよ、もっと続け!とすら思ってしまう。
なぜ、ロスト・クインテットなのかというと、このメンバーで公式に録音された盤がほとんど出ていないから。
CDショップ店頭で簡単に手に入れることができるのは、『1969マイルス』ぐらいだろうと思う。
ところが、ひとたび海賊版のラインナップに目を向けると、あるわ、あるわ。
もう全部買ったらお小遣いがパーになっちゃうじゃない!と嘆くぐらい豊富にブートレッグは出回っている。
私が最近手に入れた『スウェディッシュ・デヴィル』という2枚組は、面白いねぇ。
なんたって、エレピのチックが、アコースティックピアノを弾いているんだもの。
どうもエレピの故障により、急遽アコースティックということになったようだが、つまり、エレクトリック・マイルス時代の演奏なのに、「エレクトリック・マイルス」とは呼べない編成になっているところが面白い。全員アコースティック楽器。
しかも、《ネフェルティティ》もやってるし。
ハンコックじゃなくてピアノがチックで。しかも、アコースティックで。
そういったもの珍しさもあっての音源だが、やっぱり、この音楽ではアコースティックピアノよりも、やっぱりエレピの音色が恋しくなる。
そういうわけで、エレピに戻った2枚目!ということになるわけだけれども、《This》のようにもろフリージャズ的アプローチの面白い演奏もあるにはあるが、このバンドの18番の《ディレクションズ》なんかは、いまひとつ迫力不足。
これだったら、まだ『1969マイルス』のバージョンのほうが良い。
他の演奏も同様。
はじけっぷりと、バランスのよさにおいては、私は『1969マイルス』のほうがトータル的に素晴らしいと感じるが、皆様はいかに?
もし、マイルス史上、3本指に入るほどの抜群のメンバーが集められたロスト・クインテットの音に興味のあるかたは、まずは、とにもかくにも、『1969マイルス』から入門して欲しい。
これ聴くだけでも、十分半年は持ちます(ちょっと大袈裟?)
しかるべく後に、もっとロスト・クインテットの演奏を聴いてみたい!という方は、このブートにも手を伸ばすとイイんじゃないかな?
チックがアコースティックピアノを弾いてます、ネフェルティティもやってますといった物珍しさはあるが、演奏のトータルなダイナミクスやバランスは、正直、『1969マイルス』よりは落ちると思う。
でも、それはあくまで、滅茶苦茶素晴らしい『1969』と比較したからであって、演奏のクオリティはもちろんかなり高いことは言うまでもないし、この時代にここまでの高次元に到達しえたバンドはどこにもない、はず。
記:2009/03/07