スウィート・レイン/スタン・ゲッツ

      2021/01/21

グラディ・テイト

このアルバムは、一日中聴き続けても飽きがこない稀有なアルバムだと思う。

いや、「一日中」というのは大袈裟かもしれないが、耳の焦点をズラすたびに新たな発見と楽しみが増してくるのだ。

それも聴けば聴くほど。

まずは、グラディ・テイトのドラミング。
はい、これだけで5回は聴けますね。

最初は、ハットの音色だけに注目!(注耳?)
はい、ハットの音色だけで2回は聴けます。

彼の細かくシャープなハットの刻みと音色、見事!
正確無比でありながらも、変化に富んだハットワーク。
時折「シャーッ♪」とアクセントがはいるオープンハイハット。
気持ちよすぎです。
このハットの音色だけで酔えます。

そして、同じ金属楽器といえば、シンバル。
これも、よく聴くと、かなり細かく変化に富んだ叩き方をしていて、アルバム一枚ぶん、シンバルの音を聴いているだけでも退屈しないところが凄い。

さらには、パンパンに皮を張ったスネアドラムの音色。

このスネアの音色と、テイトの小気味良い「打」のタイミングは、かなりの気持ちよさ。

このアルバムは、当時まだ無名だったチック・コリアをサイドメンに入れたということで、チックのピアノにばかりスポットが当てられているように感じるが、なかなかどうして、チックももちろん素晴らしいが、グラディ・テイトのドラムこそが、このアルバムがかもし出す新鮮な息吹を形作っているのではないかと思っている。

チック・コリア

さて、チックのピアノだが。

うむ、チックのピアノを聴くだけでも、一度に3回はいけますね。

なにしろ、彼のバッキングの細やかさといったら。

若い頃から豊富な引き出しを持っていたのだなと呆れてしまうほど、バッキングのバリエーションがワンパターンに陥らないのは見事。

時にハンコック的な和声も一瞬垣間見えることもあるが、独特な和音の跳ね方は、チックならではのニュアンス。

その上、《ウインドウズ》などの滑らかなピアノソロもカッコ良い。

その当時のチックは、まだ無名の新人だったそうだが、このアルバムを当時、リアルタイムで聴いたリスナーは、このピアニストは誰だろう?!と驚いたに違いない。

それほどまで、才気溢れるピアノで、今聴いても新鮮な空気を放ってくれるのだ。

そう、このアルバムが他のゲッツの諸作と異なり、誰もが「新鮮」、「新しい」、「当時のジャズの最前線」と評しているのは、バックのリズムの新鮮な響きと、スピード感であり、一聴するだけで「この演奏は今までのジャズの響きとはまったく違うな」と思わせてしまうのは、グラディ・テイトとチック・コリアの二人がかもし出すシャープな響きがあるからなのだろう。

ゲッツとレスター

では、肝心のリーダー、スタン・ゲッツは?

さすがリーダー、バックのリズムが斬新な勢いと響きを獲得したところで、若手が繰り出す勢いに引きずられないところが凄い。

もちろん、チックのピアノの触発されて、特にフレーズ面においては新しさを感じられる局面はあるものの、ゲッツはいたってゲッツ。

バックのリズムが変われど、ゲッツはゲッツらしい貫禄を保っているところが素晴らしい。

ゲッツのサックスを追いかけるだけで最低5回は聴けてしまえそう。

そして、このアルバムのゲッツを聴けば聴くほど、ゲッツはテナーサックスを吹く上でのテクニックやスタイル面のみならず、テナー奏者としての意識のようなものもレスター・ヤング直系だなと思えてならないのだ。

レスターは、吹きすぎない。

吹きすぎぬことを美徳としているかのようなダンディズムすら感じてしまう。

いや、単にたくさんの音数を吹くのが面倒くさいだけなのかもしれないが……。

しかし、彼の音数の少なさと、その少ない音を的確な位置に、的確なタイミングで吹く美意識のようなものは、そっくりそのままスタン・ゲッツに継承されているかのようだ。

グラディ・テイトが叩き出すドラムも、チックが弾くピアノのコンピングも、細やかで音数が多い。

しかし、バックの音数の多さ何するものぞとばかりに、煽る若手たちの音に引きずられすぎないところに、王者ゲッツの貫禄を見る思いだ。

たとえば、このアルバムのイメージを決定づける1曲目の《リザ》は、ミドルテンポとアップテンポが交互に行き来する曲だが、アップテンポになった際もゲッツは引きずられない。

スピード感を強調するフレーズを上手に吹いているが、決してコルトレーンのようにバックに煽られて吹きすぎるということは無い。

彼のアドリブ、最後のコーラスのアップテンポの局面にいたっては、「♪パララッ!」と、たった3音の音を何度も繰り返しているだけ。

しかし、たった「♪パララッ!」の3音の連続だけで、スピード感と高揚感を強調させてしまっているのだから、ゲッツのセンス恐るべし。

本当に手抜きが上手、いや違った、少ない音数で最大の効果を出してしまうセンスは、やはりレスター・ヤングを感じてしまう。

もちろん、ゲッツほどのベテランのこと、熱く吹こうを思えば、いくらでも音数多く、もっとホットな演奏を繰り出すことなど朝飯前のことだったろう。

しかし、おそらく、そいういうことはゲッツの美意識に反することなのかもしれないし、少なくともスタン・ゲッツというテナー奏者のキャラクターとはいいがたい。

もちろん、《リザ》や《オ・グランジ・アモール》などのテナーの音はホットに感じる。

しかし、頑張りすぎた「汗」を見せることを潔しとしない彼の美意識からなのだろうか、音は熱くても、効果的に音を配列して、これ以上のものはありえないと感じさせるほどの説得力を帯びたフレーズを繰り出すゲッツの意識の根底にあるものは、きわめて「クール」な美意識を感じる。

ゲッツ初期の諸作は、音の肌触りもクールに感じられたものだが、ここでのゲッツも、音そのものはウォームだったりホットだったりもするが、彼の演奏に臨む際の目線は常にクールだったのではないか?

そのようなことを考えながら聴いているうちに、7回はいけてしまうアルバムなんだよね。

本当に飽きさせてくれない素晴らしい作品なのだ、スタン・ゲッツの『スウィート・レイン』は。

↓こちらでも色々と喋ってます。

記:2015/09/09

album data

SWEET RAIN (Verve)
- Stan Getz

1.Litha
2.O Grande Amor
3.Sweet Rain
4.Con Alma
5.Windows

Stan Getz (ts)
Chick Corea (p)
Ron Carter (b)
Grady Tate (ds)

1967/03/21,30

 - ジャズ