ホワット・ア・ワンダフル・ワールド/ルイ・アームストロング
とっつきやすく楽しいアルバム
ルイ・アームストロングの入門盤として最初に聴いて、他の諸作を聴きまくって、数年後一巡した後に戻ってくると、さらに味わいが増してくる作品なのかもしれない。
ジャズに興味がない人でも、一度やに度は耳にしたことがあるであろうナンバー《この素晴らしき世界》が収録されていることもあり、初心者にもとっつきやすいアルバムだ。
もちろんこのナンバーのみならず、すべての楽曲がサッチモの魅力と暖かな歌声に溢れており、楽しめるヴォーカルアルバムとしても価値ある一枚と言える。
他の代表作
この1枚で完結してしまう人と、さらにルイ・アームストロングの世界を探求してみようと思う人とでは、タイプが分かれるとは思うのだけれども、もっとサッチモを深く掘り下げてみようと思う人は、おそらくは、このアルバムが持つムードが、あまりにもポピュラーすぎて、もう少しジャズっぽいニュアンスの音源も聴いてみたいと思う人だろう。
私自身もそうだった。
ここから出発して、では次に何を聴いてみようかと思った人は、「ホットファイヴ」や「ホットセブン」の時代のサッチモを聴くと楽しみが拡がるのではないかと。
>>ザ・ベスト・オブ・ザ・ホット5・アンド・ホット7・レコーディングス/ルイ・アームストロング
ヴォーカルの魅力のみならず、サッチモはいかに力強いトランペットの表現力を持っていたのかを体感できるはずだ。
また、『プレイズ・W.C.ハンディ』もなかなか。
若かりし日の「ホット7」「ホット5」の時代を経て『プレイズ・ハンディ』を聴くと、表現に円熟味が増し、彼が放つトランペットの一音一音には、それこそ「一音入魂」ではないが生命の鼓動・躍動感が封じ込められているとさえ感じられてくるのだ。
太い波動、力強い生命力。
たっぷりとサッチモのトランペットやヴォーカルを浴びるように気が付き、しばらくこのあたりのサッチモの音にハマってくると、彼が最初にスキャットで歌ったと言われる《ヒービー・ジービーズ》という曲に興味を持ち再聴してみたり(ホットファイヴ・セブンのベストに収録)、彼の奥さんだったリル・ハーディンのピアノに焦点を当てて聴いてみたりと、少しずつ興味が広がってゆくはず。
映像では『真夏の夜のジャズ』を見て、彼のエンターテイナーぶりに触れてみたり、エラ・フィッツエラルドとの共演『エラ・アンド・ルイ』のあっさりしつつも深いコクのある楽しい作品に触れたりと、少しずつサッチモの音楽に暖かく浸かりつつ、彼の表現力の多彩さを味わうのも良い。
これら諸作を聴き、味わい、楽しみ、そして数年後に久々にこの『この素晴らしき世界』に舞い戻ってくると、初めて聴いた時よりも一段深い鑑賞ができている自分に気付くはずだ。
第一印象は「ポピュラーポピュラーしている」と思っていたかもしれないが、結局はバックのサウンドや、音楽のテイストがどうであれ、サッチモが歌い、サッチモが吹けば、結局は何でも「サッチモ=ジャズ」になっちゃうんだなということを改めて実感することだろう。
トロンボーンが効いている
タイトルナンバーはもちろんのことだが、個人的には2曲目の《キャバレー》が好き。
いつ聞いても朗らかな気分になれる。
ピアノの短いイントロが可愛いし楽しげだし、ヴォーカルの後の間奏で力強く吹かれるサッチモの短いトランペットソロも良い。
そして、この曲の陽気さと勢いに色を添えているのが、サッチモのヴォーカルの裏で隠し味的なメロディをリズミックに吹くトロンボーンの存在だろう。
《キャバレー》とともに、《ギヴ・ミー・ユア・キッス》のトロンボーンの裏メロディも秀逸。
トボけた陽気なニュアンスを加味することで、曲全体が持つ雰囲気を決定づけている。
トロンボーンのアレンジひとつとっても秀逸なサッチモの歌とペットを支える秀逸なアレンジと楽器群は、ここから何か一つの楽器を抜いたり足したりしたらバランスが大きく崩れてしまうのではないかと思ってしまうほどだ。
1967年の録音だから、当時のサッチモは66歳か67歳。
ますます円熟した衰えることのない深みのある表現には、練られて構築されたアレンジが相応しい。
ポピュラーテイストなサウンドだからこそ味わうことができるサッチモの楽しさもあるのだ。
記:2017/02/15
album data
WHAT A WONDERFUL WOLRD (MCA)
- Louia Armstrong
1.What a Wonderful World
2.Cabaret
3.The Home Fire
4.Dream a Little Dream of Me
5.Give Me Your Kisses (I'll Give You My Heart)
6.The Sunshine of Love
7.Hello Brother
8.There Must Be a Way
9.Fantastic, That's You
10.I Guess I'll Get the Papers (And Go Home)
11.Hellzapoppin'
Louis Armstrong (tp,vo)
ほか
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