ウィ・スニーザウィー/ジミー・ライオンズ

      2024/01/01

隠れパーカー派の筆頭アルティスト

セシル・テイラーが苦手な人は、セシルが抜けたこのアルバムを聴いてみると良いと思う。

なんて風通しがよく心地よいフリージャズなんだろうと感じること請け合いだ。

ジミー・ライオンズといえば、フリージャズを代表するピアニスト、セシル・テイラーと「セット」で認識され、もしくは語れることの多いアルトサックス奏者だ。

たしかに、名盤『カフェモンマルトル』での演奏は素晴らしい。

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また、セシル・テイラーが来日したときに引きつれてきたメンバーの1人がジミー・ライオンズで、この時のライヴの模様は『アキサキラ』という超弩急のライブアルバムも残しているため、セシル・テイラーの片腕かつ参謀的存在という認識を持っても不思議ではない。

しかし、ジミー・ライオンズは、「フリーの人」であると同時に、「バップの人」であるということも忘れてはならない。

特に『コンプリート・アット・ザ・カフェ・モンマルトル』の演奏の随所で確認することが出来るパーカー的なフレーズは、彼のルーツにはしっかりとビ・バップが根付いていることの証明だ。

実際、若き日のライオンズは、セロニアス・モンクやバド・パウエル、エルモ・ホープらのピアニストと親交があったというから、しっかりとしたバップの基礎教養はその時点で身につけていたことは想像に難くない。

そして、パーカー派のアルトサックス奏者は、キャノンボール・アダレイ、フィル・ウッズを筆頭に、ソニー・スティット、ソニー・クリス、アーニー・ヘンリーなどなど多くのジャズマンがいるが、「隠れパーカー派アルティスト」の筆頭に挙げても良いくらいの実力の持ち主でもある。

ただ、セシルと共演している回数が多いために、リズムは否定形、調整も複雑怪奇な領域に突入していったがために、難解なアルティストだという烙印を押されてしまっているのかもしれない。

分かりやすく、セシルの音楽が「見えて」くる

しかし、彼がなくなる3年前(86年に56歳で死去している)に録音された『ウィ・スニーザウィー』を聴けば、ジミー・ライオンズの音楽観がわかりやすいほど直接中にはいってくるだろう。

もちろん、テーマはスタンダードナンバーのように口ずさめるような平易なメロディからは程遠い意が、参加メンバーたちの卓越した演奏力にささえられ、一見難解かもしれないが、よく聴くと、かなり風通し良く心地の良いジャズを形作っていることがよく分かるはずだ。

なにしろ、ドラムのポール・マーフィーをのぞけば、全員がセシル・テイラーとの共演歴があるというツワモノたち。それなのに、セシルのピアノが抜けているだけで、こうも分かりやすい表現になってしまうとは。

女性バスーン奏者のカレン・ボルカの音色といい演奏といい、どこまでも軽やかで柔軟性が素晴らしい。

ラフ(ラフェ)・マリクのトランペットは、伸びやかに歌っている。

ウィリアム・パーカーのベースの鼓動は、セシル・テイラーのピアノの鼓動そのもの。

単音で奏でられる低音を聞けば、セシル・テイラーのゴツゴツとしたピアノのパターンが見えてくるようで、なるほど、セシルは管楽器奏者のバックでは単に滅茶苦茶なピアノを奏でているのではなく(そんなはずは絶対ないのだが)、きちんとした秩序、いや、彼なりのきちんとした法則をもって伴奏を繰り返していたのだということがよくわかる。

ただ、ピアノはベースと違い、同時に複数の音を出せ、その音の配合具合によっては、いくらでも複雑なハーモニーを形成することが出来るため、我々はセシルのリズムうよりもむしろ彼のピアノの複雑な響きに翻弄されていたということがよくわかるのだ。

だからこそ、セシル・テイラー不在の、セシル・テイラー的フリージャズともいえる『ウィ・スニーザウィー』は、1曲ごとの演奏の構造が分かりやすく、しかも各管楽器奏者の卓越した腕前によって、飽きることなく楽しめるのだ。

逆にいえば、いかにセシルのピアノが事態をややこしくしていたのかということが分かる演奏群が収録されているアルバムともいえるかもしれない。

ただ、もちろんセシルの「ややこしさ」は悪いことではなく、むしろ演奏を単調に陥らせないたセシルのピアノがあったからこそ、我々は何度でもセシルの「謎」を解くためにアルバムを聴きかえしていたのだろう。

だからこそ、もう一人のセシル・テイラーであり、セシルのアルトサックス版であるジミー・ライオンズのリーダー作を聴くことによって、我々はより一歩、セシル・テイラーの複雑怪奇に思われた音楽の「部分的答合わせ」をすることが出来、また、いかにセシル・テイラーの音楽性は、シンプルかもしれない構造に、ひと捻り、もしくは、ふた捻りを入れているのかということが分かるのだ。

なにしろ、いままで苦手だった『ユニット・ストラクチャーズ』の《エンター・イヴニング》も、このアルバムの《リメンバランス》を聴くことで、「なるほど、そういうことだったのか!」と、なんとなくではあるが、セシルやジミー・ライオンズが目指した音楽的なフィギュアの輪郭が見えてきたほどなのだから。

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数学の図形問題に頭を悩ませている際、たった一本の補助線を引くことによって、解が「見えてきた」という経験は誰しもがお持ちかもしれないが、私にとって『ユニット・ストラクチャーズ』というアルバムは、難解な図形問題さながらだった。

しかし、『ウィ・スニーザウィー』という1本の補助線を得たがために、またたく間に『ユニット・ストラクチャーズ』の聴こえ方が変わり、それはあたかも難解な問題が鮮やかに氷解してしまった爽快感に通ずるものがあった。

学校のお勉強話の喩え話ついでに、もうひとつ喩えるのであれば、このアルバムは、セシル・テイラーの音楽が難解な入試問題だとすれば、それに対策するための参考書のようなものですね。

セシルがわからなければ、このアルバムに立ち返ってみよう!

記:2019/06/30

album data

WEE SNEEZAWEE (Black Saint)
- Jimmy Lyons

1.Wee Sneezawee
2.Gossip
3.Remembrance
4.Shackinback
5.Driads

Jimmy Lyons (as)
Raphe Malik (tp)
Karen Borca (bassoon)
William Parker (b)
Paul Murphy (ds)

1983/09/26 & 27

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