フリー/ベニー・ゴルソン

      2021/12/12


Free

動画解説

ゴルソン流の「フリージャズ」

あくまでこれは想像の域を出ないのだが、このアルバムを録音したときのゴルソンは、オーネット・コールマンを意識していたのではないだろうか?

《アイ・リメンバー・クリフォード》などの名曲をいくつも書き、さらに「ゴルソン・ハーモニー」と称されるほど、独自のテイストを打ち出した名アレンジャーでもあるゴルソン。
そして、彼は作曲家、編曲家でありながらも、彼はサックスプレイヤーだ。

かっちりとした構成力のある作・編曲で名を馳せたジャズサックス奏者が、その対極ともいえるスタイルの作曲家でありサックスプレイヤーのオーネット・コールマンがシーンに登場し、賛否両論の嵐をまきおこしたことに関心を持たないわけがない。
そして、おそらくこう思ったのではないだろうか。
「オレとは全然違う」と。

ゴルソンの曲は、掴みがしっかりとしている上に、印象に残る親しみやすいメロディのものが多い。
それは、きちんとした構成力によるところが大きい。
きちんと、起承転結のストーリーを描いているからこそ、古来より「物語」が好きな人間のとっては心地よくストーリーをなぞることが出来る。

ところが、オーネットのナンバーは「起承転結」よりも、「気分」や「雰囲気」のようなものが先立っている。
そして、これらを優先させるあまり、時に構成を犠牲にしてでも、感覚的なものを優先させるのがオーネットのスタイルだ。

ライオネル・ハンプトンや、ディジー・ガレスピーのバンドで培ってきた作・編曲能力を駆使し、ロジカルに組み立てられた構成美を持つからこそ、ゴルソンのペンによるナンバーは、多くのジャズマンたちに愛され、演奏されてきた。

その一方で、オーネットの場合は、作り出す曲にしろ、演奏にしろ、非常に「感覚」優先主義で、しかも、それゆえに妙な力強さと説得力を帯びている。

自分にもこういうことができないだろうか?と、もしかしたらゴルソンは考えたのかもしれない。
だとすれば、このアルバム『フリー』の冒頭で演奏された《ソック・チャチャ》のアドリブも納得できる。

なんというか、従来のゴルソンとは違い、かなり感覚優先というか、その場で思いついた短いフレーズを一筆書きのように空間に放り投げている。

トミー・フラナガン以下、手堅いリズム陣が、しっかりと4ビート(あるいはラテン調のリズム)を堅固に守っているがゆえ、ハードバップの延長線上の演奏として抵抗感なく聴くことは出来る。
しかし、《ソック・チャチャ》でのゴルソンは、けっこう過去の自分の演奏ロジックとは違うスタイルで挑戦をしているかのようにも聴こえるのだ。

興味深いことに、ゴルソンの「ふがふが」したテナーサックスの音色と、新たな境地を開拓せんがごとくのフレーズは熱気を帯びたユーモラスさを帯び、奇妙な高揚感をもたらしてくれる。

そして、断片的に繰り出したフレーズも、俯瞰的に聴くと、けっこう有機的なつながりを持っているように感じるのは、さすが名アレンジャーのことだけはある。

気分で吹いているようでいて、頭の片隅には数分先の落としどころもキチンと計算されているのだろう。

この感覚優先的なプレイでありながらも、理性もきちんと働いているというバランス感覚が《ソック・チャチャ》の面白いところだ。

もちろん、このアルバムのすべてのナンバーがそのようなアプローチをしているというわけではない。

普通に、というと変だが、オーソドックスなスタイルでの演奏のほうがむしろ多いほどだ。
しかし、あまりに《ソック・チャチャ》のゴルソンのアドリブがユニークなため、私にとって、このアルバムのイメージは《ソック・チャチャ》であり、さらにこのナンバーがかもし出す気分を照らし出すジャケットの不気味可愛いイラストが一体化して迫ってくるのだ。

記:2019/12/15

album data

FREE (Argo)
- Benny Golson

1. Sock Cha Cha
2.Mad About The Boy
3.Just By Myself
4.Shades Of Stein
5.My Romance
6.Just In Time

Benny Golson (Tenor Saxophone)
Tommy Flanagan (Piano)
Ron Carter (Bass)
Art Taylor (Drums)

1962/12/26

関連動画

>>ベニー・ゴルソン・アンド・フィラデルフィアンズ/ベニー・ゴルソン
>>ジ・アザー・サイド・オブ・ベニー・ゴルソン/ベニー・ゴルソン
>>グルーヴィン・ウィズ・ゴルソン/ベニー・ゴルソン

 - ジャズ