ヒアズ・レイ・ブライアント/レイ・ブライアント
黒いブライアント
レイ・ブライアントの代表的名演として、筆頭に挙げられるのが、『レイ・ブライアント・トリオ』の《ゴールデン・イヤリング》だろう。
この演奏は、ちょっと湿ったニュアンスで、レイ・ブライアントとしては淡白なフィーリングだ。
それともう1枚。
彼を代表するアルバムに『コン・アルマ』があるが、ここで聴けるブライアントのタッチは実に明晰。
テキパキとした陽性なノリを生み出している。
もちろん、どちらもブライアントのピアノには違いない。
しかし、上記2種類の顔以外にも、もう一つの「顔」がある。
むしろ、こちらの顔のほうが彼の本音かもしれない。
すなわち、黒いブライアント。
《ゴールデン・イヤリング》でのアッサリさや、アルバム『コン・アルマ』全体を通して感じられるポキポキしたメリハリは陰を潜め、かわりに粘っこく迫るピアノ。
それが『ヒアズ・レイ・ブライアント』だ。
ブライアント的黒っぽさ
このアルバムで聴けるレイ・ブライアントのピアノは、ブラックなフィーリングの濃度が高い。
ひとくちにブラックなフィーリングといっても、ファンクやR&Bの黒っぽさや、ホレス・シルヴァーやボビー・ティモンズが繰り出す黒っぽさとでは、だいぶニュアンスが異なるが、レイ・ブライアントが表出する「黒さ」は、教会音楽、すなわちゴスペルに根差したフィーリングだろう。
もちろん、レーベルやアルバムによって露骨にスタイルが変わるというわけではなく、ブライアントのピアノはブライアントに違いないのだが、言葉の言い回しのニュアンスや、語尾が微妙に異なるのだ。
そして、この語尾の違いだけでも、我々が受けるニュアンスは随分と異なる。
得意先相手に「~です」、と話していたサラリーマンが、地元・横浜に帰ったときに友達相手に「~じゃん」と気軽に話しかける。
同じ人の言葉でも、随分とニュアンスが異なるはずだ。
そして、このアルバムで聴けるブライアントのピアノこそ、じつは彼の本音なんじゃなかろうかと感じる。
さらに、このアルバムでは、ベースがジョージ・デュヴィヴィエということもあり、黒っぽさとはまた違う図形的かつ、じっくり聴けば聴くほど、端正ではありながらも、ある意味変態的なフィーリングの持ち主が伴奏をしているということもあるため、彼のベースに照らされるブライアントのピアノは、相対的により一層、黒く、粘っこく浮かびあがっているのかもしれない。
記:2003/02/06
album data
HERE'S RAY BRYANT (RCA)
- Ray Bryant
1. Girl Talk
2. Good Morning Heartache
3. Manteca
4. When Sunny Gets Blue
5. Hold Back Mon
6. Li'l Darlin'
7. Cold Turkey
8. Prayer Song
Ray Bryant (p)
George Duvivier (b)
Grady Tate (ds)
1976/01/10 & 12