ジャスト・フレンズ/ヘレン・メリル・フィーチャリング・スタン・ゲッツ

   

超高級ムード歌謡

アマゾンのレビューを見ると、「超高級ムード歌謡」という記述を発見したが、思わずニヤリとしてしまった。

まさに言いえて妙。

もちろん、皮肉がこめられた修辞であるのだが、スタン・ゲッツやヨアヒム・キューンのような豪華一流ジャズマンを迎えた「超高級」なテイストは嘘いつわりなく、さらに、あのヘレン・メリルが、お馴染みのスタンダードナンバーを歌うのだから、歌唱も悪かろうはずがない。

「ムード歌謡」ほど安っぽいわけでもなく、とはいえ、何十年も昔の全盛期のリヴァイヴァル感も拭いがたわけで、ちょうど「超高級」という枕詞がしっくりとくるというわけだろう。

つまり、このアルバムが持つテイストや、その背後に潜む企画集を見事に数文字で言い当てた、ある意味秀逸なコピーだともいえる。

とはいえ、内容はというと、これがまた悪くないのだ。
ま、ゲッツやキューンのような一流プレイヤーともなれば、調子がよかろうが悪かろうが、やる気があろうが無かろうが、本人たちの心の物語とは無関係に、結果的には水準以上のものが出来てしまうものだ。

それに、かつてはフィル・ウッズのヨーロピアン・リズムマシーンに在籍していたダニエル・ユメールのドラミングだってかなりのもの。

ゲッツの音が聴ければ、彼の音そのものが、彼の音の存在感そのものが「ジャズ」になってしまっているので、彼のテナーサックスを耳にすることが出来れば、それで満足というジャズファンも多いのではないだろうか。
もちろん私もその一人だ。

さらに、衰えぬヘレンの歌唱にも驚く。
彼女は、1930年7月21日生まれ。
これが録音されたのは、1989年だから59歳のときの録音だ。
つまり還暦直前の録音。

もちろん、いじわるな細部聴きをすれば、いくらでも声のハリなど、いくぶんかの衰えは確認できるやもしれぬ。しかし、それでも、おそらく多くのヘレン・メリル・ファンが永遠に抱き続けるであろう24歳の時のイメージを崩すことなく歌っているため、ファンの期待を裏切らないはずだ。

彼女が24歳の時というのは、そう、1954年に録音された、あの決定的名盤であり、彼女を代表する『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』のことですね。


With Clifford Brown

24歳の時に定着させてしまったイメージを25年間も保ち続けるのって、それはかなりのものだと思う。
アルフィーの高見沢俊彦とか、聖飢魔IIのデーモン小暮閣下とか、アイアン・メイデンのスティーヴ・ハリスや、オジー・オズボーン、それにKISSのジーン・シモンズなど、男性ミュージシャンなら何人も思い浮かべることができるが(しかも、デーモン小暮やジーン・シモンズはメイクしているし)、女性で25年間も美貌とイメージを崩さずに長年のファンのイメージと期待を裏切らない人って、なかなかお目にかかれないものだ。
女優の吉永小百合や、戸田恵子は、わりとそれに近いかもしれないが。
あ、あと、森高千里もね♪

なんだ、けっこういるじゃないか(笑)。
とはいえ、希少であることは事実。
ヘレン・メリルもその一人だ。

美貌も歌唱もキープしつづけ、期待を裏切らない。
ムード歌謡、いや超高級ムード歌謡であっても良いではないか。

聴く前の「いや、ちょっと待て」とブツブツと面倒くさいことを考えていた頭も、聴いてしまえば、こまかなことを忘れて腹八分目な満足感を得られる大衆ジャズヴォーカル名盤だと個人的には思っている。

邦題『ジャスト・フレンズ』(原盤権は日本フォノグラム)。

記:2019/07/23

album data

HELEN MERRILL FEATURING STAN GETZ (Emercy)
- Helen Merrill

1.Cavatina
2.It Never Entered My Mind
3.Just Friends
4.It Don't Mean a Thing (If It Ain't Got That Swing)
5.Baby, Ain't I Good to You
6.It's Not Easy Bein' Green
7.If You Go Away
8.Yesterdays
9.Music Maker

Helen Merrill (vo)
Stan Getz (ts)
Joachim Kühn (p) #1,2,3,4,8,9
Torrie Zito (p) #5,6,7
Jean-François (b)
Jenny-Clark (b)
Daniel Humair (ds)

1989/06/11&12

YouTube

動画でもこのアルバムのことを語っています。

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