メリー・ゴー・ラウンド/エルヴィン・ジョーンズ
動画解説
どんな曲でも、とにかく叩く、叩く
う~ん、統一感ないねぇ。
曲によってアプローチやコンセプトがバラバラ。
聴く前にパーソネルを見ると、デイヴ・リーブマン、ジョー・ファレル、スティーヴ・グロスマン、フランク・フォスターら、若手(当時)の強豪サックス軍団による重厚なサウンドが展開されるのかと思いきや、彼らは全曲参加しているというわけではなく、曲によって参加したりしていなかったり。
さらに、鍵盤だとチック・コリアや、ヤン・ハマーも参加している。
なかなかの顔ぶれだ。
しかし、彼らがこのアルバムは、1971年のエルヴィン・ジョーンズの「今」を捉えたジャズレポートといった趣きであるといえましょう。
猛けるエネルギー、獰猛ともいえるほどのバイタリティの持ち主、エルヴィンのパワーは衰えることなく、いや、むしろパワーアップをしている感すらあり、おそらくは彼がもつ貪欲な「ジャズ意欲」は、ひとつの形態にとどまることなく、様々なタイプの曲を、様々なドラミングでトライしたいという欲求のあらわれが、このアルバムに凝縮したのだろう。
基本、収録曲は、参加ミュージシャンが作った曲の持ち寄り。
つまり、71年当時のエルヴィン親分に対して、若手が自分の守備範囲、得意分野で挑んだ優秀な若手ジャズマンたちの今を伝えるレポート的な役割を果たしているともいえよう。
特に興味深いのは、チック・コリアの自作曲だ。
そう、彼、そして「リターン・トゥ・フォーエヴァー」の代表曲、《ラ・フィエスタ》だ。
「かもめのチック」で有名なECMの『リターン・トゥ・フォーエヴァー』の録音が、翌年72年の2月。
つまり、このレコーディングの2ヵ月後に行われているが、既にチック・コリアはこの演奏の前哨戦を、エルヴィンがリーダーのアルバムで試みているところが、なかなかしたたかであり、また用意周到だともいえる。
そして、このアルバムのレコーディングに参加しているジョー・ファレルを自己のバンド「リターン・トゥ・フォーエヴァー」のメンバーにしているのだから、なかなかしたたかといえばしたたか(既にこの段階からメンバーとして声をかけていたのかもしれないが)。
面白いことに、「かもめのチック」ではエレクトリック・ピアノを弾いているチックだが、こちらのアルバムでは、ピアノを弾いている。
《ラ・フィエスタ》のアコースティックピアノバージョン、そしてプロトタイプ《ラ・フィエスタ》としても聴けるので、チックファン、RTFファンにとっては、一聴の価値があるのではないかと。
ちなみに、ギターで2曲参加している増尾好秋だが、彼がブルーノート・レーベルの録音に参加した初の日本人となった。
このレコーディング前後に増尾はチック・コリアからの誘いを受けているが、この誘いの直前にソニー・ロリンズからの誘いにOKと返事をしてしまったために、RTFには参加しなかった。
RTFに参加していれば、また違ったジャズ史が展開されていたのかもしれない。
なにしろ、RTFが初来日を飾ったときは、日本のメディアからはかなり注目を集めたようだし、同時期に来日したビル・エヴァンスの記者会見はガラガラだったそうだ。
もし、増尾がRTFのメンバーとして「逆来日」を果たしていたら、さらにニューストピックスとして大きく取り上げられ、さらなる盛り上がりを見せていたに違いない。
このように、その後、大御所、もしくは中堅として成長していく(エルヴィンから見たら)若手たちを、パワフルなエルヴィン・ドラムがビシバシと鍛えた痕跡が、このアルバムには封じ込められている。
どんなタイプの曲でも、どんなタイプの演奏でも「何でも来いや、料理したるで!」なドラム欲満点の重くパワフルなドラムが全編にわたって楽しめることは言うまでもない。
記:2019/12/19
album data
MERRY-GO-ROUND (Blue Note)
- Elvin Jones
1.Round Town
2.Brite Piece
3.Lungs
3.A Time for Love
4.Tergiversation
5.La Fiesta
6.The Children's Merry-Go-Round March
7.Who's Afraid...
1971/2/12、12/16
Elvin Jones (drums)
Joe Farrell (tenor saxophone #1 soprano saxophone#2, 6, 8 flute #4 piccolo #7)
Steve Grossman (tenor saxophone #1, 6 soprano saxophone #2, 7),
Dave Liebman (tenor saxophone #1, 6, 8 soprano saxophone #2, 6, 7)
Frank Foster (tenor saxophone,,alto flute,alto clarinet #8)
Pepper Adams (baritone saxophone #6, 7)
Chick Corea (piano #4-6 electric piano #5)
Jan Hammer (electric piano #1, 5 piano #2, 3 glockenspiel #7)
Yoshiaki Masuo(guitar #1, 4)
Gene Perla (bass #2-5 electric bass #1, 6, 7)
Don Alias -(congas #1, 3, 5, 6 oriental bells #2)