ミンガスの一本指奏法
ミンガストーン
チャールス・ミンガスのベースの音色は独特です。
40年代、50年代のジャズベーシストの多くは一本指奏法でしたが、ミンガスの一本指奏法によるピチカート(指弾き)は、トーンの安定感と、音の粒立ちは群を抜いていたと思います。
一本指奏法
一本指奏法とは?
人差し指に中指を添えて、弦に対して垂直ではなく平行に近い角度で弦を弾く奏法ですが、言葉で説明するよりも、動画をご覧になっていただいたほうが早いかもしれませんね。
YouTubeなどの動画サイトで、検索をかけて「動くミンガス」をチェックしてみてみてください。
ベースを弾いているミンガスの右手を見て気が付くことは、弦に対して指が平行になっているということ。
これにより弦に接する指の面積は広くなり、結果、太く豊かな低音が得られるのですね。
音の太さは、弦に接触する面積に比例します。つまり、この時代のこの奏法のベーシストの音が太いのは、指と弦の接地面積によるものが大きいのです。
ミンガスの弦高
ミンガスのベースの音色は、他のベーシストに比べると低音の伸びが短いぶん、彼が使用していた弦の高さは、そうとう高かったと思われます。
弦の高さが高ければ高いほど、音の減衰時間が短くなります。
短くなるかわりにインパクトのある音が得られます。
「ボーン」ではなくて、「ボンッ!」というアタックのある音ですね。
弦高が高くなればなるほど、弦を押さえる左手の握力が必要となり、また、テンションが高くなった弦を弾く右手の力や手首のスナップ力も必要になります。
このようにパワーを必要とされるセッティングでありながらも、ミンガスは、速いパッセージを弾く時や、曲のテンポが速くなっても、一貫して太い低音とビッグトーンを維持しています。
抜群の安定感
アレンジにも凝るミンガスは、途中でテンポが倍になったり、アクセントとして多めの音符を挿入することもよくあるのですが、アクセントとして多めの音符を挿入することがよくあるのですが、音数が増えた場合も、ベースのトーンや音色が変化することなく、安定しており揺らぐことはありませんでした。
このようなベースのスタイルやセッティングは、ミンガスのみならず、この時代のベーシストに共通したスタイルではあるのですが、ミンガスの音の太さと音の粒のキープ力は並外れていたと思います。
ミンガスは、ベーシストとしても優れた力量の持ち主だということが、このことからだけでもお分かりいただけると思います。
ミンガス・プレゼンツ・ミンガス
このようなミンガスのベースの特徴をまとめて確認できるナンバーは?
『ミンガス・プレゼンツ・ミンガス』に収録されている《All the Things You Could be by Now If Sigmund Freud's Wife was Your Mother(汝の母、もしフロイトの妻なりせば)》が良いのではないかと。
この曲の土台(コード進行)は、スタンダードナンバーの《オール・ザ・シングズ・ユー・アー》ということもあり、ミンガスにとっても手馴れた曲でもあるのでしょう、随所にリズムの変化をつけて演奏しています。
Charles Mingus Presents Charles Mingus
ベースラインも、高速4ビートから、装飾音的な低音が中心になる箇所があったりと、かなりの変化に富んでいますが、固く粒の揃った減衰速度の早いベースの音色は徹頭徹尾一貫しているのです。
一般的には《フォーバス知事の寓話》がこのアルバムの代表作とされていますが、この曲は一回聴けば4~5年は聴かないでいいやと思わせるクドさがあるので、聴きたくなければラストナンバーの《フロイトの妻》にスキップしちゃいましょう。
記:2016/08/08