トライローグ/アルバート・マンゲルスドルフ&ジャコ・パストリアス
2023/03/31
ストイックなジャズ
ジャコ・パストリアス好きなら周知のとおり、ジャコが音楽に臨む姿勢は、大変ストイックだ。
たとえば、教則ビデオのインタビューでも語っているとおり、あの《ドナ・リー》は9年も練習しつづけて、ようやくあそこまで到達したわけだし、
バッハの《半音階的幻想即興曲》だって、つねに譜面を持ち歩き、楽屋など、ちょっとした時間の隙間を見つけて練習を続けていたのだという。
天才、革命児と喧伝されながらも、たとえ天才であっても、それぐらいの努力をしてこそ、ようやく人を感動させるだけの「音のヴォイス」を身にまとうことができるわけで、そんなこともせずにウダウダグダグダいっている我々一般大衆にとってみれば、ジャコの音と若いころの努力のエピソードを知って、もっと襟を正すべきなのだ。
真剣に聴かざるをえない
とはいえ、
とはいえ。
ジャコの音楽を聴くときの私の気分は、どちらかというと快楽主義的だ。
興奮するし、
オーイエーだし(笑)、
カッコえ~だし、
イカす(古)だし、
とにかくジャコの曲といい、ベースのプレイといい、そこから放射されるオーラは、きわめて強靭な「陽」。
だから、小難しいことなど考えず、ひたすら「楽しんで聴く」というのが私がジャコの音を聴くスタンスでもある。大部分の音源は、そうだ。
しかし、一部例外だってある。
トロンボーン奏者のアルバート・マンゲルスドルフと共演した『トライローグ』だ。
トロンボーンに、ドラムに、ジャコのベースという変則的な編成。
生み出される緊迫した音と音。
フリージャズにも接近したこのニュアンス、相手の音に聞き耳をたてながらも繰り出される緊張感あふれる知的な世界。
ジャコのベースは、彼得意の手くせはいたるところに認められるものの、音のニュアンスがだいぶ違う。
神妙に、そしてエッジのたった低音で、抽象的な幾何学空間に強靭な補助線をいれ、独特な空気の醸成の一員となっている。
そう、しょっちゅう聴くアルバムではないが、もしかしたらジャコ参加のアルバムでは、これが一番好きかもしれない。
好きなのに、なぜ「しょっちゅう聴かない」かって?
それは、真剣に聴かざるを得ないから。
一音一音もらすまいとして。
聴き流せる演奏の隙間のようなものがまったくないから。
だから、真剣に1枚を聴きとおすと、ぐっしょり汗が出るほど緊迫した世界。
心地よい精神の疲れもよいものだが、毎日毎日、味わおうと思うものでもないのだ。ノーテンキな私からすると。
ノリノリでゴキゲンなジャコもいいが、たまには、このようなダークで知的な演奏の一員となったジャコの演奏も悪くない。
記:2000/09/25
album data
TRILOGUE (MPS)
- Albert Mangelusdorff & Jaco Pastorius
1.Trilogue
2.Zpres Mores
3.Foreign Fun
4.Accidental Meeting
5.Ant Steps On An Elephant's Toe
Albert Mangelusdorff (tb)
Jaco Pastorius (b)
Alphonse Mouson (ds)
1976/11/06