太陽系一わかりやすい!超入門ジャズ!おすすめベスト10♪
再び、楽器を聴こう!
前回の記事「銀河一わかりやすい!初心者向けジャズ超入門(⇒こちら)」では、おすすめアルバムの中から、楽器の魅力を感じ取れる曲や演奏者の特徴を解説しました。
基本、1枚のアルバムから、たった1つのポイントだけを抜き出して説明したのですが、名盤の中に「たった1つ」だけしか聴きどころがないということはあり得ません。
そこで今回は、「聴きどころアゲイン!」ということで、さらにジャズの美味しい聴きどころを紹介させていただきます。
前回の「銀河系」よりはマニアックな箇所もあるかもしれないので、さすがに「銀河一」ではないだろうなと思い、今回のタイトルは「太陽系一」にいたしました。
ダグ・ワトキンスのベース
アルバム:サキソフォン・コロッサス(ソニー・ロリンズ)
粘りの低音
ラストナンバー《ブルー・セヴン》のイントロが、じつはこのアルバム最大の聴きどころだと個人的には思っています。
ベース一台から演奏がスタート。
ちょっと引きずるように重たく粘る感じのベースがグッドです。
ベーシストはダグ・ワトキンス。
この粘り腰からくる重量感のあるベースがあるからこそ、『サキコロ(サキソフォン・コロッサス)』は名盤として不動の地位を獲得しているのだと思います。
キャノンボール、追いかける!
アルバム:『サムシン・エルス』(キャノンボール・アダレイ)
スリリング!
1曲目の《枯葉》で満足せずに、3曲目の《サムシン・エルス》にも注意して耳を傾けてみましょう。
マイルスがトランペットを吹く。
それと同じフレーズ(旋律)をキャノンボールが吹く。
おそらく即興です。
マイルスが吹く印象的なフレーズを、キャノンボールが一生懸命追いかけます。
追いかけっこです。
なかなかスリリングな雰囲気が漂う追いかけっこです。
ひとしきり追いかけっこが終わった後のハンク・ジョーンズのピアノソロにも耳を傾けてみましょう。
《枯葉》や《ラヴ・フォー・セール》ではエレガントで繊細なピアノを弾いていた彼が、今度は、ちょっと骨っぽいゴツゴツしたタフなピアノを弾いていますよ。
さすが、一日の日課が「腕立て伏せ100回」だったピアニスト!
繊細でもあり、豪腕でもあるのです。
参考記事:サムシン・エルス/キャノンボール・アダレイ
トッポいリー・モーガン
アルバム:『モーニン』(アート・ブレイキー)
トランペットのハーフ・バルブ奏法
トランペット奏者、リー・モーガンの演奏にも注目してみましょう。
彼の得意技の一つに「ハーフ・バルブ」と呼ばれるものがあります。
これは、トランペットのピストンを半分ぐらい押して音を出すのですが、要は、音色にメリハリをつける奏法です。
ギターで言えば弦を引っ張るチョーキングのようなものですね。
音程がちょっと捻じ曲がったような感じで、♪ぽん~わっ! ♪ぱぉ~あっ!というような、ちょっとトボけた感じのニュアンスになります。
《モーニン》の、トランペットソロに出てくるので、確認してみましょう。
音色に変化をつけて、このような演奏をするリー・モーガン。
わざとストレートに吹かないところが、ちょっとスカした感じもするし、不良っぽい感じもするし、そこが彼のたまらない魅力なのです。
参考:モーニン/アート・ブレイキー&ザ・ジャズメッセンジャーズ
切々と訴えかけるサックス
アルバム:『レフト・アローン』(マル・ウォルドロン)
マクリーンのアルト
《レフト・アローン》でアルトサックスを吹いているのは、ジャッキー・マクリーン。
彼のアルトサックスは、クラシックの価値基準からしてみれば「ヘタくそ」の部類に属するでしょう。
音程悪いし、きちんと教育を受けた正しいアンブシュア(マウスピースの咥え方)で吹かれているとは思えないダークでくぐもった感じの音色なんですね。
しかし、ジャズ的価値基準からしてみれば、そのマイナス面が一転してプラスに転じます。
このマイナス面が、誰もが真似することが出来ないマクリーンの個性になっているからです。
そして、切々と訴えかけるように吹くフレーズを聴けば、「テクニック」ではなく、「気持ち」で吹いていることが感じられるはず。
だから、多くのジャズファンはマクリーンのサックスに魅了されるのです。
不器用だけれども、一生懸命な感じに惹かれるのでしょう。
クラシック好きが、いきなりマクリーンのアルトを聴くと、「なんじゃこりゃ?!」になるようですが、逆にマクリーンの「肉声」の虜になったら、あなたも立派なジャズファンの仲間入りです!
参考記事:ジャッキー・マクリーンをこよなく愛す。ベタなところも全部含めて
参考:レフト・アローン/マル・ウォルドロン
デカ音、コルトレーン
アルバム:『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』(マイルス・デイヴィス)
名脇役
《ラウンド・ミッドナイト》で、マイルスがミュートトランペットでテーマの旋律を奏でた後、♪ジャッジャッジャーン・ジャン! と活字にするとベートーベンの《運命》みたいになっちゃいますが、要するにトランペットとサックスのアンサンブルが、この曲をよりいっそう劇的に盛り上げます。
これに続いて登場するのが、ジョン・コルトレーンのテナーサックス。
マイルスがピリッと要点だけを押さえた吹奏をしていたことに対して、コルトレーンは大きな音でモリモリとパワフルにテナーサックスを吹きます。
この「ピリッ」と「モリモリ」の対比がアンサンブルに良い効果を生み出しています。
「アボットとコステロ」のようなデコボココンビ、あるいは「お笑い」で言えば、ボケとツッコミの関係?
あえて違うキャラクターを配することによって、バンドの表現の広さを生み出しているマイルスのセンスが光ります。
《バイ・バイ・ブラックバード》でも、マイルスが要点をビシッと押さえたトランペットを吹いた後に、あいかわらず、もりもりとたくさんの音数でテナーサックスを吹くコルトレーン。
この対比がたまりません。
参考:ラウンド・アバウト・ミッドナイト/マイルス・デイヴィス
親しみやすい和音の流れ
アルバム:『ザ・シーン・チェンジズ』(バド・パウエル)
《ボーデリック》は《セント・トーマス》なのだ
このアルバムに収録されている曲の中では、《クレオパトラの夢》が好きになったら、次に好きになる確率の高い曲は《ボーデリック》なのではないかと思われます。
明るく親しみやすいメロディのナンバーです。
それを、アドリブなしに何度も何度も繰り返してパウエルは楽しそうに弾いているので、1回聴けばメロディを覚えてしまうことでしょう。
《クレオパトラの夢》の夢から始まり、2曲目、3曲目、4曲目と立て続けにダークなムードの演奏が続いた後に、一転してハッピーなムードの曲調が流れ出すので、ホッと一息、肩がほぐれる方も多いことでしょう。
そして、よく聴くと、「あれ? この曲の響きというか流れは、どこかで聞いたことがあるかもしれないぞ?」と気が付くかもしれません。
そうなのです。
これは、ソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』の1曲目《セント・トーマス》と同じコード進行なのです。
もっとも、《セント・トーマス》にはサビがありますが、《ボーデリック》にはサビがありません。つまり、サビじゃないところのメロディ、Aメロと呼ばれている箇所のコード進行が一緒なのですね。
コード進行というのは、和音の流れと解釈していただければ。
ジャズは、有名な曲からコード進行を拝借して、別なメロディを乗っけたり、このコード進行の上に即興でメロディを演奏したりしますが、《ボーデリック》、および《セント・トーマス》のコード進行は、ジャズにおいては、典型的な流れ(コード進行)の一つなのです。
ジャズを聴くことに慣れてくると、メロディだけではなく、伴奏をするピアノの響きや、ベースが奏でるベースラインにも耳がいくようになります。
これらの伴奏を追いかけていくと、一定のパターンや流れがあるということにだんだんと気が付いてくるでしょう。
そうすると、「あの曲と、この曲は違う曲なのに、伴奏は一緒だぞ?!」ということに気が付いてくることでしょう。
ちなみに、ジャズではないんですが、韓流ドラマで、一時期大流行した『冬のソナタ』のテーマは、マイルスとキャノンボール・アダレイの《枯葉》のコード進行とまったく同じです。
あのドラマを感動的に味付けしたのは、もしかしたら《枯葉》のような「泣けるコード進行」を土台にしていたからなのかもしれません。
参考:ザ・シーン・チェンジズ/バド・パウエル
マッコイ・タイナーの和音
アルバム:『マイ・フェイヴァリット・シングズ』(ジョン・コルトレーン)
ピアノの和音に聴き惚れる
《マイ・フェイヴァリット・シングズ》で、コルトレーンがソプラノサックスを吹くバックで、執拗に同じようなパターンの和音を繰り返すのピアニストは、マッコイ・タイナー。
彼が繰り返し弾き出す和音の響きと、パターンは聴いているうちに、どんどん気持ちよい気分になってきませんか?
まるで、おとぎの国の中に誘われるような。
そういえば、村上春樹の『海辺のカフカ』でも、主人公が四国に旅をし、深い森の中を彷徨うシーンも、主人公が聴いていた音楽はコルトレーンの《マイ・フェイヴァリット・シングズ》でした(たしか)。
不思議な心地よさを覚えながら、ぐるぐると別世界をあてどもなく彷徨うような不思議な気分に誘われますよね。
参考:マイ・フェイヴァリット・シングズ/ジョン・コルトレーン
またもやマクリーン!
アルバム:『クール・ストラッティン』(ソニー・クラーク)
熱っぽく吹く
2曲目の《ブルー・マイナー》は、今も昔も人気曲です。
サビのところでラテンタッチになるテーマや、タンゴ音楽のようなマイナーな響きが大好きな日本人好みのメロディの哀愁あふれるAメロが、人気の秘密のようです。
テーマも魅力的ですが、アドリブパートになると、ジャッキー・マクリーンの熱を帯びて一生懸命に吹くアルトサックスが魅力的です。
またもやマクリーン!
マル・ウォルドロンのところでも紹介しましたが、彼の熱にうかされたように熱いサックス、これの魅力に開眼すれば、本当に今後はいろいろなジャズを楽しめるようになれると思います。
だからといって、いきなり気合を入れて「聴くぞ~、聴くぞ~!」と力む必要はありません。
まずは、気楽に各々の楽器奏者が奏でるメロディを追いかけてみましょう。
参考:クール・ストラッティン/ソニー・クラーク
ジョー・モレロのドラミング
アルバム:『タイム・アウト』(デイヴ・ブルーベック)
なにげに凄い!
《テイク・ファイヴ》の5拍子、《トルコ風ブルー・ロンド》の9拍子と、『タイム・アウト』というアルバムには印象的な変拍子の曲が収録されています。
最初はポール・デスモンドのふわりとしたアルトサックスや、デイヴ・ブルーベックのゴツゴツとしたピアノに耳が吸い寄せられると思うのですが、彼ら個性的な演奏者や、特徴的な変拍子の曲を違和感なくリズムキープしつづけ、のみならず、鼓舞するジョー・モレロのドラミングも、なにげに凄いです。
凄すぎて、かえってフツーに聴こえてしまうのかもしれません。
参考:タイム・アウト/デイヴ・ブルーベック
ハロルド・メイバーン!
アルバム:『ディッピン』(ハンク・モブレイ)
名わき役!
このアルバムを代表する《ザ・ディップ》にしろ、《リカード・ボサ》にしろ、キャッチーで印象に残りやすいメロディの曲です。
メロディのみならず、サウンドのカラーも印象に残っていませんか?
ノリノリだったり、哀愁だったりと、演奏がもつ表情のようなもの。
この表情を色づけしているのが、ハロルド・メイバーンJr.のピアノなのです。
すごく、曲のツボを心得た伴奏をしていると思いませんか?
分かりやすく、時には下品なくらいお節介にコテコテに。
だからといって、主役を食うわけでもない。
このような個性的な脇役が、上手に演奏を盛り上げてくれたからこそ、上記曲たちは、時代を超えて多くのリスナー達から愛されているのでしょう。
参考:ディッピン/ハンク・モブレイ
演奏者の個性で聴こう!
さて、今回は「銀河系」よりは、少しマニアックな「楽器の聴きどころ」を紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?
まだまだ初心者の方には聴いていただきたいアルバムはたくさんあるのですが、いきなりジャズCDを何十枚も買って聴いたところで、頭に残りませんよね?
ですので、なるべくお財布に優しく、「宇宙一」で取り上げた10枚に関しての聴きどころを、しつこくしつこく追いかけています。
名盤が名盤たるゆえん。
それは、良いところが1つではないところ。
たくさんの良いところ、聴きどころがあるから、より多くの人の心に残り、語り継がれるのです。
ですので、まだまだ上記10枚に関しての紹介を続けたいと思っています。
次は、いよいよ「地球一」になるのかな?
お楽しみに!
記:2017/12/23
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