不調ロリンズとエキサイティングなトニー~『ドント・ストップ・ザ・カーニヴァル』

   

ソニー・ロリンズのリーダー作『ドント・ストップ・ザ・カーニヴァル』で特筆すべきは、トニーのドラム。

シンバルの連打、金属の持続音が洪水のように続き、両手でスネアなどでオカズをとるときのみ、その持続音が途切れ、微妙に空間に緊張感がもたらされる。

その一瞬のギャップが良い。

このエネルギッシュさは、マイルス・クインテット時における知的な空間構築能力とは一線を画し、むしろ野蛮な荒々しさに満ちているが、左足で刻むハイハットの心地よい定速4つ刻みはまぎれもなくトニーのもの。

のほほんさ加減の増してきた、この時期のロリンズの音楽性にトニーのワイルドな側面が完全にマッチしているかといえば、それは疑問だが、それでも、やはりトニーのドラミングに耳を奪われてしまうのは、主役のロリンズがいまひとつパッとしていないからかもしれない。

マウスピースの変化による音色の変化は、ダーティさが増し、ギラリとした音色が奏でるメロディアスというよりは、メロディが構成される一歩手前のブツ切りフレーズの連続。

全盛期のロリンズのフレーズは、一見無意味とも思えるフレーズの断片がひとつひとつ意味を持ち、やがてそれらのパーツが大きな大河のごとくひとつに纏まり意味を形成していたが、ここでのロリンズのフレーズの断片は、パズルのピースが絵を完成させることなく、バラバラな音塊(ピース)として中空に放り投げられたまま、報われないまま消滅していってしまっている。

よって、メロディアスなロリンズのプレイを期待しながらフレーズに耳を傾けても、あまり報われない。

印象的なテーマよりも魅力的なメロディの一瞬を見出せないまま、比較的長い時間続いてゆく演奏は、潤いが感じられず、まるで乾燥したフランスパンを口の中に頬張っているよう。

バイタリティこそあれ、往年の自分の出した音に落とし前、オチをつけてしまう編集能力は衰えてしまったのかと感じざるを得ない、必ずしも好調とはいえないロリンズの姿がパッケージされてしまったのが、『ドント・ストップ・ザ・カーニヴァル』というアルバムなのだ。

ライブやライブ映像などでは楽しめるこの曲だが、どうしても耳だけで追いかけてしまうCDというメディアで聴くと、アラばかりが耳についてしまうのが「音だけメディア」の厳しいところだ。

しかし、清濁併せ呑むではないが、ロリンズ好きは、こういうロリンズをも含めてロリンズ大好き!なはず。

不調かもしれないが、それがロリンズというサックス吹きの価値を下げるものでもない。

トニーのドラムを愉しみつつ、気軽に何度も聴こう!

記:2010/08/17

album data

DON'T STOP THE CARNIVAL (Prestige)
- Sonny Rollins

1.Don't Stop the Carnival
2.Silver City
3.Autumn Nocturne
4.Camel
5.Introducing the Performers
6.Nobody Else But Me
7.Non-Cents
8.A Child's Prayer
9.President Hayes
10.Sais" (James Mtume) - 7:55

Sonny Rollins (ts,ss)
Mark Soskin (p,el-p)
Aurell Ray (g)
Jerome Harris (el-b)
Tony Williams (ds)
Donald Byrd (tp,flh) #5-9

1978/04/13-15

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